【官能小説】第一話「ハロウィン仮装で遊びに来た、浮かれ気分の後輩君。冗談のつもりの一言が……」
「だって先輩、人混みとか……嫌い、って言ってたじゃないですかぁ……。だから、誘うに誘えなくてぇ……、」
ハロウィン。今夜私の部屋には、吸血鬼が――ヴァンパイアが訪れていた。
いや、正確に言うと、吸血鬼に扮した大学の後輩君だ。それも酔っ払って。アポイントも無しに。
最初彼が、赤ワインを手にインターホンを鳴らした時、正直私はムッとした。
でも、若干呂律も足元がおぼつかない感じで入ってこられて、仕方無くリビングのソファに並んで腰かけて、そのワインを飲んでいる。
飲みましょうよぉ、なんて出来上がった感じで言うけれど、私なんて今までずっと一人寂しく、テレビのニュース番組で盛り上がる渋谷や六本木の景色を眺めては溜息を吐いていたというのに。
それを、何よ? そんな楽しそうに、仮装までしちゃって。浮かれちゃって。
君はリア充、私は喪女。わかる? その違い。君と私の間には、高い、高い壁があるんだからっ。
官能小説「ハロウィンの訪問者は、片思いの後輩君」第一話
「驚かそうと思って仮装して、六本木にワインを買いに行ったんですよぉ……そしたら、サークルのメンバーにバッタリ会っちゃいましてぇ……、」
「でも楽しかったんでしょ! 良かったじゃない。こんな遅くまで飲んでて、さぞハロウィン、楽しかったでしょうよ~」
そうよ、楽しかったことに違いは無いんでしょ? わかる?
そう、何と言ったら良いのやら……悔しい? 羨ましい? それとも、嫉妬?
……ん、嫉妬? 意味が分からない。私はコイツの彼女でも何でもないのだし。ただの、先輩と、後輩でしか、ないのに。
「先輩、嫉妬してるんですかぁ?」
――バカみたい!
今まさに考えていたことを言い当てられて、私はグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
ゴク、ゴク、と二回ほど。カーッと、喉が熱くなる。
そうだ、そろそろ酔ってきているのか、私は。後輩君に薦められるがままに、どんどん飲んで、ボトルの液体も終わりが見えてきている。
お酒が進まないわけがないわよ、こんな状況で。
楽しそうな彼。寂しい私。
いや、違う、そんなの関係ない、たぶん、
「大体、本当、何で……来たのよ。喪女に対するアテツケなの? それとも……、」
普段だったら、絶対こんな冗談は言えない。だけど、どうせ何を言った所で、彼も私も、きっとこの夜のことなんて、覚えて無い。
なら、儘よ。
「私のことが、スキだとでも?」
私はボトルから、最後のワインを並々とグラスに注いだ。
それを一気に飲み干す。ゴクゴクと。
そういう飲み物じゃないってことはわかってる。だけど、そうでもしないと、この場が気まずくて死にそうになる。
どうして黙ってるのよ。
なんか言いなさいよ。
笑ってくれればいいだけなんだから、冗談キツイですよ、って。
飲み干して、ちらっと彼の方を見た。
彼は私を見て、いつも通り、にこにこ穏やかに笑っている。
「先輩、」
バカですか?
口をついて出る言葉を、私はソウヨネー、なんて誤魔化して。
もう一本開けようか! って、ストックしてあったワインを持ってきて。
飲んではしゃいで二人で酔い潰れて、始発が出る頃にお帰り頂こう。
そう思っていた。
なのに。
「やっとわかってくれました?」
……は?